風のローレライ


第2楽章 風の濁流

1 家


あれから、どれくらい過ぎたんだろう?
わからない。
でも、閉じられたカーテンの隙間から薄く光がもれていた。赤い夕焼けの光……。
バカ親達は出掛けたらしく、家の中に気配はなかった。
お膳の上には広げたままの新聞があった。わたしは転がるようにそこまで行くと、何とか半身を起こしてそれを読んだ。
だけど、あの事件のことは何も出ていなかった。
どうしてなんだろう?
そうか。わたしは新聞に書かれていた日付を見て気付いた。
今日は入学式の日だ。あれからもう3日も過ぎてしまったんだ。
あの事件のことが載っているとしたら、もっと前の新聞だ。
古い新聞はまとめて部屋の隅の袋に積まれていた。
でも、そこまでは行けそうにない。手首に結ばれた紐は遠くまで行けないように、引き戸の金具にきつく結ばれていたからだ。でも……。

お膳の隅に爪切りがあった。これだ! わたしは閃いた。これで紐が切れるかもしれない。
はじめはなかなかうまく行かなかった。でも、何度も角度を変えたり、やり方を工夫したりしているうちに少しだけ切り込みを入れることができた。
これなら、いけるかもしれない。わたしは何度も続けた。早くしなければ、あいつらが帰って来ちゃう!
焦りが手元を狂わせ、失敗を繰り返した。でも、やらなきゃ……。ここから逃げ出すんだ。
そして、ついに手首を拘束している紐が切れた。
自由になった手で、すぐに足首の紐を解き、三日分の新聞を持つと家を出た。

そして、できるだけ家から離れようと走った。足はふらついていたし、身体のあちこちが痛かった。
でも、休んでなどいられない。見つかる前にどこか安全な場所まで行かなくちゃ……。
安全な場所?
そんなとこあるのかな? 
でも、今はどこでもいい。あいつらの手の届かないところへ……。

辿り着いたのは小学校の裏庭にあるウサギ小屋だった。
小屋の鍵は壊れていた。わたしは網の隙間から手を入れて、閂を外すと小屋の中へ入って身を低くした。
奥で寝ていたウサギ達が驚いて目を覚ました。それから、じっと身を縮めて不思議そうにわたしを見つめている。
「ちょっとここで休ませてね」
わたしは街灯の明かりに照らして、持って来た新聞を読んだ。
でも、あの夜のことは、どれにも書かれていなかった。

どうして?
いつもなら、事件や事故が起こる度、
テレビや新聞は面白がって取り上げているくせに、
どうしてあの事件のことだけは黙っているんだろう?
だって、二人も大ケガをして、
何人もの人が闇の風に呑まれて消えちゃったのに……。
それなのに……。

そうだ。わたしはあの時、闇の風の力を使った。
その時、胸の奥で風が笑う声が聞こえた。
――やめろ!
わたしは両手で耳を覆った。
怖いよ! やめて! お願いだから……!
あの闇の力が熊井達を消滅させた。

わたしは恐ろしくなって自分の手のひらを見た。
あいつらは本当に消えてしまった?
だとしたら、わたしが殺したことになっちゃうの?
わたしが願ったから……。
そうだ。わたしが望んだから闇は動いたんだ。
わたしのせいだ。きっとわたしの……!

外はもう、日が暮れて真っ暗になっていた。
わたしはウサギ小屋を出て、細い裏道を歩いた。
街灯の光が滲んでいる。
寒い……。
でも、帰れない。
平河……。助けて!
「裕也……」

気がつくと、わたしは姫百合中学校の前に来ていた。
思えば、ここではじめて裕也に、プリドラの連中に会ったんだ。
そうだ。あいつらに訊いてみよう。
裕也が入院している病院のこと……。
それに、平河のことだって、誰か知っているかもしれないし……。
どうして気がつかなかったんだろ?
わたしは、さっと手の甲で涙を拭くと校門を目指した。

門には鍵が掛けられていた。まるで、わたしを拒絶するように……。
わたしだって、今日からここの生徒なのに……。
そう思ったら、急に悲しくなった。
入学式だったのに……。
制服も鞄もないわたしは、中へ入ることも許されないの?
高い校舎が夜を背負ってわたしを睨んだ。
まるで、ここから先に入って来るな! って通せんぼしているみたいに……。

窓には明かりがついていなかった。
校庭も静かだ。
「だあれもいない」
時間はよくわからなかったけど、夜だもん。きっともう、みんな帰っちゃったんだ。
その時、遠くから車のエンジン音が聞こえた。
わたしは全速力で走って学校の裏側の路地に逃げた。
また捕まったら殺されちゃうかもしれない。そんな恐怖が頭の中を過ったから……。

そこには古い木の家が並んでいた。
街灯も少ないし、道もくねってでこぼこしている。
道まで伸びた木の枝が垂れ下がって何だか不気味だ。
でも、わたしはうしろばかり気にしていた。
あの男が、バカ親が追って来はしないかと……。
でも、わたしを追って来る奴は誰もいなかった。

疲れた。それに、お腹が空いた……。
もう三日も何も食べていないんだもん。
「ホットミルク……」
思わずそうつぶやいた。
どうして、あの部屋から逃げ出して来ちゃったんだろ?
もらっておけばよかった……。
甘くてあたたかくて、ちょっぴり赤ちゃんのにおいがするホットミルク。
その湯気を思ったら、急に涙が出そうになった。

お腹が空いて、もう動けないよ。
お金があれば……。
「そうだ!」
わたしはふと思い出して左の靴を脱いだ。もうぼろぼろで、あちこち禿げてぺらぺらになっているその内側に手を入れる。
「あった!」
こないだバッグを取り返してやった女の人からもらった五千円。
失くさないように靴の内側に挟んでおいたんだ。
そこは破けてポケットみたいになっていたから、細く折って突っ込んでおいた。
さすがにバカ親達も、これには気がつかなかったんだ。
これだけあればおにぎりが買える。それに飲み物だって……。もしかしたら、新しい靴だって買えるかもしれない。そう思った時、

「そんなところで何をしてんだ?」
急に背後から声がした。わたしは急いでお札をまた靴の中に押し込むと、それを突っかけて駆け出そうとした。でも……。
足がうまく動かない。何だかふらついて先へ進めずに、わたしは思わずしゃがみ込んだ。
「おい!」
そいつが近づいて、わたしの肩を掴んだ。いやだ! もう捕まるのはいや……!
「何だ、おめえ、キラちゃんじゃねえか」
街灯に照らされたそいつの顔を見て、わたしはつぶやいた。
「マー坊……」
彼は「プリドラ」のメンバーの一人だった。よかった。これで裕也がどこの病院に運ばれたのか訊ける……。

「おい、大丈夫か?」
マー坊が手を差し伸べてくれたけど、わたしは立てそうになかった。
「気分が悪いのか?」
「ううん。ちがう」
「救急車呼ぼうか?」
「ううん。やめて! 何でもないの! すぐによくなるから……」
わたしは慌ててそう言った。
「なら、おれんち、そこだからちょっと休んでいけよ」
「でも……。そんなの悪いよ」
「平気だよ。おれんち、おれとばあちゃんの二人暮らしだから……。それに丁度よかったよ。おまえに制服渡そうとしてたんだ」
そうだ。制服。マー坊のおばあちゃんが直してくれるって言ってたんだっけ。
「ほら、掴まれよ。それとも抱っこしてってやろうか?」
「いいよ。自分で歩ける」
わたしは何とか自力で立ち上がろうとした。でも……ひどい眩暈がしてよろけた。

「ほら、みろ。無理だよ。おれが連れてってやる」
そう言うと彼はひょいとわたしを抱えて歩き出した。
いやだ。こんなとこ誰かに見られたらどうしよう?
すごく恥ずかしかった。でも、体が言うことをきいてくれなかった。仕方がないので、わたしは身を縮めるようにして大人しく運ばれることにした。

家はほんとにすぐそこにあった。古そうな木の家は柱も黒く光っている。
マー坊はガラス戸を開けて言った。
「ばあちゃん! 女の子連れて来たんだ。ちょっと来てくれよ!」
すると、小柄で少し腰の曲がったおばあさんが、奥の部屋から出て来て目を丸くした。
「あれま! どうしたってんだい? その子は……」
彼女は驚いて孫に訊いた。
「キラちゃんだよ。言ってたろ? 直してもらった制服は、この子にやろうとしてたんだ」
「それで、どうしたんだい? どこか具合でも悪いのかい?」
おばあさんが心配そうに訊いた。
「大丈夫です。ただ、お腹が空いて……。もう3日間も何も食べてなかったから……」
わたしは素直にそう言った。
「3日もだって?」
おばあさんはさらに驚いて、わたしの顔を覗いた。
「かわいそうにね。さあさ、奥の部屋においで」

畳の部屋にはこたつがあって、仏壇とテレビ、それにこまごまとした物が納められているリビングボードがあった。
「横になった方がいいか?」
マー坊が訊いた。
「ううん。大丈夫」
わたしが答えると、おばあさんが長座布団を貸してくれた。
「ありがとうございます」
わたしが言うと、彼女はにこにことうなずいて言った。
「今、何かあたたかい物こさえて来るから……」
そう言うと、おばあさんは奥へ行き、マー坊は麦茶を持って来てくれた。

「ところでさ、制服なくて、今日の入学式出なかったんじゃないのか?」
彼に訊かれて、わたしは俯いた。
「やっぱりな。そんなことじゃないかと思ったんだ。式の時、おまえの顔見掛けなかったから……」
わたしは黙って麦茶のコップを握り締めた。
「気に障ったんならごめんよ。けど、心配してたんだぜ、みんな……」
「裕也も……?」
「ああ」
茶の間に掛けられた柱時計が鳴る度に、窓の向こうで闇の風がガラスを打った。
「そうだよ。あいつが一番心配してた」
わたしは裕也がどこの病院に連れて行かれたのか知りたかった。けど、それを訊く前にマー坊が言った。
「あいつ、おまえに惚れてるんだと思う」
「えっ?」
わたしは驚いてその顔を見た。
「惚れてるって……?」
「つまり、おまえのことが好きなんじゃないかって……。だから、あんなに一生懸命……」

マー坊は何か言いたそうな顔をした。でも、そこへおばあさんが雑炊を持って来て、わたしの前に置いた。
「あり合わせの物だけど……」
「あ、ありがとう」
おいしそうなにおいに、お腹の虫がグーグー鳴いた。
「熱いから、気をつけて食べるんだよ」
「はい」
白い湯気の向こうで、おばあさんが微笑んでいた。
わたしはスプーンを使って少しずつそれを口に運んだ。
それは本当においしかった。お米も野菜も、本当はこんな味だったんだと思うと胸が熱くなった。

お腹が満たされると、わたしは元気を取り戻した。
お礼を言って、ここから出ようとしたら、おばあさんが泊って行けと言った。
「でも……」
「なあに、遠慮するようなことじゃないよ。それにほら、せっかく直したこれを合わせてみなきゃね」
おばあさんが制服を持って来た。
「あ、ありがとう」
袖を通すとぴったりだった。でも……。やっぱり古いのがわかってしまう。
スカートやブレザーの袖がすれて光ってたから……。
でも、いまさら、そんなこと気にしてもしようがない。
わたし、これまでだって新品の服なんか買ってもらったことないんだもん。いつだってみんな、誰かのお古ばかりで……。
だけど、中学の制服はみんな新しいのを作るって聞いたから……。それじゃあ、わたしも生まれて初めて、誰も袖を通してない新しい服が着れるんだって……。勝手に思い込んでいただけなんだ。だから……。
「うん。ありがとう。ほんとにうれしい。わたしにぴったりで……」
わたしは、おばあさんの前でくるりと回って見せた。彼女に背中を向けた時、涙がじわりとこみ上げたけど、わたしは我慢した。

「ほんとだね。よかったよかった」
おばあさんはとても喜んでくれた。
「そんじゃあ、明日から学校に行けよ」
マー坊も言った。
「じゃあ、お風呂沸かして来るからね」
おばあさんが席を立ったので、わたしはこっそりマー坊に訊いた。
「ねえ、裕也が今、どこにいるか知ってる?」
「ああ。あいつなら入院してるよ」
「入院?」
「ケガをしたんだ。骨折してて、全治1カ月だって……」
「ひどいの?」
さり気なく訊いた。
「ああ……。高校の連中にやられたらしいんだ。でも……」
「でも……?」
なるべく平気な顔をして言ったけど、マー坊は気づいたみたい……。

「おまえ、何か知ってるんじゃないのか?」
「別に……。何も知らないよ。どうして?」
わたしはしらばっくれた。
「だって変だからさ」
「変って?」
「裕也をやった連中のことさ。まるで蒸発したみたいに消えちまったんだぜ。連中が乗っていたバイクだけが公園にあったって……」
消えた? じゃあ、やっぱり連中は闇に呑まれたんだ。

「アキラ、おまえ、何か知らないか?」
「し、知らないよ! そんなこと。何でわたしに訊くの?」
「だって、裕也の奴、おまえのこと気にしてたみたいだしさ。あの日も……」
「……知らない」
わたしは握った手をそっと開いた。絡んでいた黒い糸がすっと離れて畳に落ちた。
「それで、裕也はどこの病院に入院してるの?」
顔を上げずに訊いた。
「ああ。南野総合病院だよ」
その時、お風呂の支度ができたからと、おばあさんが呼んだ。


次の日。わたしは初めて姫百合中学校へ行った。
前日にはお風呂に入って髪も洗ってさっぱりした。

――これは娘が買っておいた物だけど、袖を通していないから……

おばあさんが言った。マー坊のお母さんは2年前に病気で亡くなったんだって……。

――でも……わたしなんかが着ていいの?
わたしが言うと、マー坊は笑って言った。
――おまえがもらってくれたら、母ちゃんだって喜ぶさ。おれ、女物の下着なんて着ないし……
――ありがと

わたしがお風呂に入っている間に、おばあさんがそろえてくれた着替えにはブラジャーもあった。
ブラジャーなんてまだしたことないけど、いいのかな?
わたしはそっとそれを手にした。やわらかくて変な感じ。
どうやって付けるんだろ?
わたしはそれを胸に押し当てて、紐を腕に通してみた。それから、うしろにあった鍵のホックをはめる。
まだ少し大きい。
紐の長さは調整できたから、少し短くして……。
鏡で見たら、まるで自分じゃないみたいで変な感じだった。
大人ってみんな、こんなのを付けてるんだ。

それから、おばあさんがくれたパジャマを着て、ボタンをはめた。
服の上からでも胸がくっきりと膨らんで、本当に大人になったみたいな気がした。
わたしだって中学生になったんだから、もう立派な大人だ。ブラジャーだって付けれるんだ。
そう思うと何だかうれしかった。
新しい下着を着て、中学校に行ける。それだけで十分だった。

「そっちが1年生だよ」
マー坊に下駄箱の場所を教えてもらった。でも、わたしは上履きを持っていなかった。小学校の時のを持って来ればよかったのかな? でも、中学では、上履きの先のところに色が付いている。訊いたら、それは学年カラーで、1年生はブルーなんだって……。
「そうか。上履きのことまでは気がつかなかった。ごめんな」
マー坊が言った。
「いいよ。わたしが用意しなかったのがいけないんだもん」
用意しようにも、ほんとはできなかったんだけどさ。

「職員室の前に、来客用のスリッパがあるから、借りたらいいよ」
そう言って、マー坊がスリッパを持って来てくれた。
「ありがと」
わたしがそれにはき替えていると、マー坊のクラスの人達が彼のことをからかった。
「ヒューヒューッ! 正敏(まさとし)、おまえの彼女か?」
「ち、違うよ! この子が学校初めてだって言うから、案内してただけさ!」
彼は慌ててそう言った。彼、正敏っていうのか。
「マー坊にも彼女ができるとはな!」
みんなから言われて、彼は困った顔をした。
「あの、ありがとうございました! あとは一人で大丈夫ですから!」
わたしはわざと大声で言って頭を下げた。
「あ、そうか。そんじゃあ、おれは行くけど……」
正敏はそう言うと背中を向けた。
「な? だから、言っただろ? ただ訊かれたから案内してただけだって……」
仲間達にそんな言い訳をしている。
そうだよ。わたしとなんか関わらない方がいい。

わたしは気を取り直して、脱いだ靴を持つと下駄箱に向かった。
でも、たくさん並んだ四角い箱には番号しか付いていなかった。わたしはいったいどれを使えばいいんだろう?
それどころか、クラスさえもわからない。どこを見ても手掛かりはなかった。もうクラスの名簿も貼り出されていない。
どうしよう。たくさんの生徒達が通る昇降口で、わたしは途方に暮れた。
せめて誰か知ってる人でも来ないかな?
見ると、向こうの廊下を歩いている亜美ちゃんを見つけた。
「亜美ちゃーん!」
わたしは彼女を呼んだ。でも、彼女は振り返らなかった。隣の子がこちらを見て何か言っている。でも、亜美ちゃんはちらとわたしを見て、首を横に振ってまた、さっさと歩き出した。
わたしは、そんな亜美ちゃんの背中と手にした靴とを見比べた。
小学校の時からはいているぼろぼろの靴。中学校ではもう誰もそんな靴なんかはいていない。どっちを見ても立派な革靴ばかりが並んでいた。
そうなんだね。知らなかったよ。
わたしは取り合えず、番号のない下駄箱の中へ靴を入れた。

考えてみれば、わたしは鞄も持っていなかった。見慣れない床と白い壁がずっと長く続く。そこを行き交う制服の人達。誰もわたしに話し掛けてはくれなかった。帰ってしまおうか? でも、どこへ? わたしには帰る場所なんかないのに……。
その時、チャイムが鳴った。周囲にいた人達が一斉に駆け出して行く。
待って! わたしは心の中で叫んだ。

わたしはどこに行ったらいいの?
足には大き過ぎる緑色のスリッパ。

――職員室の前に来客用のスリッパがあるから……

そうだ。職員室。そこで訊けばいいんだ。

「あの、わたし、1年生の桑原アキラなんですけど……教室がわからなくて……」
丁度出て来た女の先生に訊いた。
「桑原さん? ちょっと待ってて!」
その人は意味あり気にじろじろとわたしを観察してから職員室に戻って男の先生を呼んで来た。
「ああ。君が桑原さんね。私は1年2組の担任の吉野です。丁度始まりだから、取り合えず教室に行こうか」
「はい」

1年生の教室は1階で、職員室の近くにあった。
前のドアから先生といっしょに入ると、皆がわたしに注目した。
「おはよう!」
先生が声を掛けると、クラスのみんなも「おはようございます!」とあいさつした。
「昨日、欠席してた桑原さんです。席は名前の順だから、君は2列目の前から3番目に座って。ああ、近くの人は彼女にわからないところ教えてあげて」
先生はそれだけ言うと今日の予定を話し始めた。
なんてことはない普通の教室。でも……。明るい陽射しの中に黒い影がよどんでいる。
わたしは少しだけいやな予感がした。